へそで珈琲を沸かす

日本の歴史、伝統、食文化などを紹介する旅行記

【新潟県】遂に出逢ってしまった日本酒の魅力

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『招かれた酔客』 新潟県長岡市 宿屋「蓬莱館」 (2020/12/05)

 

目次

 

米生産量日本一の新潟県

記念すべき旅行記の第1弾は、2020年12月に訪ねた新潟県にスポットを当てる。何と言っても新潟県は、日本人の主食である米の総生産量全国1位を誇っている。農林水産省によると全国の年間の米の生産量は8,607,00t で構成比としては7.7%が新潟米である。次いで2位の北海道は7.3%、3位は秋田県で6.1%となっている。日本の食卓を支える新潟県への敬意と感謝を込め(米)、このテーマを取り上げる!

 

米といえば日本酒

新潟といえば米、米といえば日本酒だ。(※人それぞれ)

同年9月に父方の実家の北海道札幌市を訪ねた際は、世界3大ビール産地*1 とも言われることから ”ビールしか勝たん” 精神で連日ビール縛りの晩餐を決行した。(いつか記事にしよかな)

そういった独特のストイシズムを持ち合わせている筆者故、勿論この日は ”日本酒しか勝たん” わけで、早速日本酒の唎き酒ができる「ぽんしゅ館」へと向かった。

ワンコインで唎き酒「ぽんしゅ館」

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『ぽんしゅ館 長岡驛店』

「ぽんしゅ館」では受付で500円を支払うとお猪口とメダル5枚が渡される。およそ100種類の銘柄がズラリと並んだ唎き酒マシーンから地酒を選び、最大5杯の唎き酒を楽しめる。僕は2周目に行きかけたが、同行していた仲間に意欲が無かった為、渋々断念した。ただ酩酊状態になる前に止めてくれる仲間がいたことは心強かった。(笑) 立ち寄る際はご注意を。

CoCoLo長岡 本館2F ぽんしゅ館
営業時間:11:00〜19:00(L.O.18:45)
TEL:0258-94-4313 FAX:0258-94-4314

www.ponshukan.com

 

日本酒の造り方

近年、世界中で注目を浴びている日本酒。 "sake" はどのように造られているのか。日本酒は原料である米(蒸米)・米麹・水アルコール発酵させたもので、その工程は大きく「麹(こうじ)造り」「酛(もと)造り」「醪(もろみ)造り」に分けられる。それを踏まえて日本酒の造り方を紹介する。

①精米

日本酒造りは玄米を精米にするところから始まる。元々の米の大きさを100とすると、食べる米の大きさは90%くらいで、日本酒用だと平均で70%前後大吟醸になると50%以下になるまで磨く。食べる上でうま味を感じる米の外側は、日本酒では雑味となる。その為米を半分以上も磨かれたものは特に、華やかな香りとスッキリとした味わいを持つ。

②洗米・浸漬

洗米は米を洗い、糠(ぬか)を取る工程。家庭でご飯を炊く際に米を研ぐのと同様に、ここで米の糠や汚れを取らないとおいしい日本酒を造ることはできない。洗米の後は米に必要な水分を吸収させる浸漬(しんせき)を行う。また、米は磨くほど水分を吸収して割れやすくなる。アルコール発酵させる工程でも影響を及ぼす為、細心の注意が必要。

③蒸米

甑(こしき)と呼ばれる大きな釜のようなもので、米を蒸す。炊くのではなく蒸すことによって米のでんぷん質が変化し、酒造りに適した水分量に調整できるとともに、殺菌効果も補える。蒸した米はその後、日本酒の用途に応じた温度に冷ます。

④麹造り

麹造り(こうじづくり)とは、麹室(こうじむろ)という専用の部屋で、米に麹菌を繁殖させる工程で製麹(せいぎく)ともいう。麹造りには48時間かかるが、出来上がる12時間前くらいから ”麹菌が死ぬギリギリの温度まで上げる”。そうすることで麹菌が生きようとして、米を溶かす成分をたくさん出してくれる。麹菌はカビの一種であるが、とても繊細な生き物で、育てようとする米の水分量や温度の1度、2度の違いだけで仕上がりが天地の差になるという。

⑤酛造り

「酛(もと)」とは、アルコール発酵を担う酵母をを育てる酒母のことで、簡単に言うと「酒のもと」。麹と水を混ぜ合わせたものに、酵母と乳酸菌、さらに蒸米を加え大量に増殖させる。一般的には、2週間から1カ月で酒母が完成する。

伝統製法「生酛造り」

酒母を手作業で造りあげる製法「生酛(きもと)造り」と言い、現存する酒造りの技法の中で最も伝統的な造り方である。生酛造りの場合は乳酸の添加はせず、蔵の空気中にある天然の乳酸菌を取り込む。乳酸菌が活動する前には 硝酸還元菌という水垢菌が立ち上がって何億種類もの雑菌を滅殺する。十分に硝酸還元菌に働いてもらった後にはまず蔵に棲みつく乳酸菌が活動を開始し、更に麹が栄養を出すことでレベルアップした乳酸菌が出てくる。

ここからは共通の酛造りの内容になる。乳酸菌の酸と麹が生み出す糖の力で、残ったほとんどの雑菌が死滅し、乳酸菌と酵母以外は生きられなくなる。そして酵母が立ち上がってアルコールが出てくると乳酸菌も死滅して、純粋な酵母だけの酒母が出来上がる。

【余談1】江戸時代を生きた酒職人の知恵

「生酛造り」の発祥は江戸時代まで遡る。この工程は特に徹底した温度管理や時間管理が必要だ。江戸時代の人は温度計も顕微鏡も無く、菌が活動しているという科学的知識も無い中、5感を駆使して生酛造りをやってきた。こういうことをやっている民族は日本だけである。これは世界に誇れる江戸時代の知恵だ。

明治時代中盤になると人工乳酸を使った速醸が主流となる。時代の流れと共に、倍以上の時間と手間が掛かり、安定的に行うことも極めて難しい生酛造りはほとんど行われなくなる。現在、全国千数百蔵の中でこれを伝承するのは、わずか数蔵のみとなっている。いつか必ず生酛造りの酒蔵*2 を見学したいと思う。

⑤醪造り

醪(もろみ)造り酒母をタンクに入れ、麹、蒸米、水を3回に分けて加えて、約3週間から1カ月掛けてゆっくりと発酵させる。これを三段仕込み」という。醪とはいわば "日本酒の前段階" で発酵を終えたものを濾すことで澄んだ日本酒が完成する。

⑥上層

発酵が終わると、醪を絞って日本酒と酒粕に分ける上槽(じょうそう)を行う。いつどのタイミングで酒を絞るかは、日本酒の味を決めるうえで非常に重要である。それぞれの酒蔵や日本酒の種類によって変わるほか、天候、成分分析値などを元に決定される。

⑦貯蔵

絞ったばかりの日本酒には、細かくなった米や酵母等の小さな固形物が残る。工程を細分化すると、それらを除去する「濾過」、その後の加熱処理「火入れ」を行い、熟成させるために「貯蔵」する。火入れでは加熱処理することによって殺菌され、日本酒の腐敗を防ぐ。約半年から1年かけて貯蔵・熟成された日本酒は、まろやかな味わいに変化する。そして熟成した原酒を、各銘柄に合わせてブレンドしていく。

出荷前には調合されたお酒にもう一度火入れをし、お酒を安定させる。その後、瓶やパックに詰めて、完成となる。

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引用元:https://jp.sake-times.com/infographics-free-download

このように大変な時間と手間が掛かって造られる日本酒。バックグラウンドを知ると今までとは違った心持ちで味わえるのではないだろうか。

 

日本酒の種類

もう一つ、日本酒を語る上で欠かせない、清酒の種類について紹介しておく。

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引用元:https://jp.sake-times.com/infographics-free-download

はい。(笑) このイラストが言葉で説明するより非常に分かり易い。原料と精米歩合によって "特定名称" が付く。精米歩合とは、原料の米をどれだけ削り、使用する部分が何%残っているかを示す値。米の中心まで削っていくほど、香りがよい、雑味の少ない清酒になるが、勿論使う米は小さくなる。精米歩合が小さくなるほど繊細、且つ、手間が掛かる為比較的高価になる。また、醸造アルコールとは、でんぷんや糖類を原料とするアルコールのこと。かつては防腐剤として用いられていたが、現在は香味の劣化を抑え、あと味をスッキリ整える目的で少量添加される。以下参考までに。

一般酒
純米酒
醸造
清酒」は日本酒のジャンルのひとつ

ところで日本酒と清酒の違いは何だろうか。お酒好きの人なら誰しも疑問に持ったことがあるだろう。日本酒を辞書で引くと、「日本古来の酒。清酒合成酒、みりんなど」と記されている。他方、清酒は「水と米を原料にした、濁っていない酒」とあり、日本の酒税法における定義では「必ず米を使い、"濾す" 工程がある酒」とされている。つまり日本酒は、清酒やみりんなどを含めたお酒の総称であり、清酒はその一種という解釈で良いだろう。
また、国税庁では、日本酒の海外展開とブランド価値の向上を念頭に、2015年に「地理的表示における日本酒」の定義を指定した。それによると、日本酒とは「原材米に国内産米のみを使い、且つ、日本国内で製造された清酒となっている。要するに、外国産米を使ったものや、海外で造られたものは「日本酒」ではないということだ。

 

感嘆した日本酒

その名は『天領盃』

「ぽんしゅ館」で唎き酒を楽しんだ一行は、お土産用のお酒と宿屋での晩酌用のお酒を求め、隣接するお土産コーナーへ向かった。僕は悩んだ末に唎き酒で気に入った 『山廃仕込*3 君の井』の銘柄を手に取った時、呼び込みの店員さんに声を掛けられた。そこで出逢ったのが天領盃』だった。

言われるがまま一口試飲した時、感嘆した。まず、思ったのが "飲みやすい!美味い!" だった。次いで "至福" という言葉が頭に浮かんだ。コレだ!

全国最年少蔵元

実際に試飲した天領盃は『大吟醸プレミアム』という限定品で、それも新潟県限定で2000本のみの生産・販売というものだった。これは2018年に若干24歳にして「天領盃酒造株式会社」の全国最年少蔵元*4 となった加登仙一氏による "若い人に向けた親しみやすい日本酒" というコンセプトがあった。まさにその思惑通り、いとも簡単に虜になってしまった僕+他1名の推しで晩酌用には『天領純米吟醸』(トップ写真右) を、お土産には『大吟醸プレミアム』を購入し宿屋へ向かった。

次の記事を読めば、同年代として一口飲んで買わない理由は無い。

jp.sake-times.com

 奇しくも「マツコ会議」で放送

当日、12月5日(土) 放送の「マツコ会議」(毎週土曜夜11:00-11:30、日本テレビ系) を宿屋で見ていた。番組では "当時全国最年少酒蔵の買収者として24歳で新潟・佐渡にある天領盃酒造を買収した加登さん" として取り上げられていて、なんとも奇跡的な出逢いを感じつつ『天領盃』を呷った。

 

番外編

【余談2】清津峡渓谷トンネル

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清津峡渓谷トンネル』 新潟県十日町市小出 (2020/12/05)

新潟県には日本3大渓谷*5 のひとつとして数えられる清津峡渓谷がある。長い歴史を持ち、大自然に囲まれたフォトジェニックな観光地として知られている。この旅イチバンの写真。↑

(※2021年1月現在臨時休坑中)

nakasato-kiyotsu.com

【余談3】越後湯沢温泉と笹団子

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『雪国の宿 高半 (ロビー)』 新潟県南魚沼郡湯沢町湯沢

越後湯沢温泉。たまらん。説明不要。(笑)

そして新潟県で有名な和菓子として笹団子がある。餡が入ったヨモギ団子をササの葉でくるみ、スゲまたはイグサの紐で両端を絞り、中央で結んで蒸したり茹でたりして作られる。ササには殺菌効果があり、北越風土記によれば戦国時代に携行保存食として生まれたとされる。上杉謙信の家臣が発明したという俗説もある。

(Wikipedia より引用)

帰路に着く前にお土産として新潟県コシヒカリを使った笹団子を購入し、どうしても "今" 食べたかったので隣の売店で別の物を購入し、実食。ヨモギの風味は抜群で美味しいのは言うまでもないが、何故に和菓子はどれだけ食べても飽きないのか。

【余談4】天領大吟醸プレミアム とブランデー
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『TENRYOHAI × Hennessy』 (2020/12/31)

年末、実家に帰省した際に、この日までとっておいた天領盃をお土産に持ち帰った。この木箱の存在感、凄みを感じるプレッシャー。栓を開けると、微かに米を感じれるほど香りが立つ。邪魔が無い。研ぎ澄まされた酒というのはこういうものなのか、と素人なりに思う。味は全くボケていないし、後味はスッキリ。これはインターバルが要らない危険なやつ。(?) 以前までは少し抵抗があった日本酒が、素直に美味しいと思えた。

因みに、右のブランデーは実家にあったもので、この日初めて飲んだ。「僕にはこのお酒はまだ早いなぁ」と呟いて隣にいた父の顔を覗くと、干し梅の如く渋い表情で居たから腹が捩れた。これは次回帰省する時まで残ってるわ。(笑)

 

銘柄紹介

①山廃仕込純米吟醸 『君の井』 

唎き酒で飲んだのは純米大吟醸。こちらは宿屋で飲んだ純米吟醸。今回の旅では天領盃と不動の2トップ。

純米吟醸天領盃』

宿屋で飲んだ純米吟醸。飲んだらハマる。

大吟醸プレミアム 『天領盃』

お土産で買った大吟醸プレミアム。家族の評判もGOOD!通販なら買える可能性有り!?

天領盃酒蔵株式会社 公式HP

tenryohai.co.jp

 

④ワイン酵母仕込み純米吟醸 『越後鶴亀』

『越後鶴亀』は有名だが、これは物珍しい。唎き酒コーナーで飲んだ感想は"完全にワイン"。ワイン好きの人にお勧め。

 

(以下注釈)

*1:ミュンヘン (ドイツ) / ミルウォーキー (アメリカ) / サッポロ (日本)

*2:日本酒を造る製造場のこと

*3:生酛造りの派生

*4:酒蔵の経営者のこと

*5:清津峡 (新潟県) / 黒部峡谷 (富山県) / 大杉谷 (三重県)